保険料控除で得する?それとも損する?数字で見る“節税の本質”とは
はじめに
年末が近づくと「保険料控除」という言葉を耳にする人も多いでしょう。
生命保険会社から控除証明書が届いたり、職場の年末調整で提出を求められたり──。
「保険料控除って節税になるんでしょ?」
「なら、保険に入っておいた方が得じゃない?」
こう考える人は少なくありません。
しかし、実際のところ“控除で得する”というのは誤解を含んでいるのです。
今回は、保険料控除の仕組みと「お得に見える理由」、
そして“正しく理解して賢く使う”ためのポイントをやさしく解説します。
① 保険料控除とは?
保険料控除とは、支払った保険料の一部を所得から差し引ける制度のこと。
税金は「所得(もうけ)」に対してかかりますが、控除を受けることで、
課税対象となる金額を少し減らすことができます。
つまり、控除は「お金が戻る制度」ではなく、「税金が少し軽くなる制度」です。
たとえば、年収500万円で所得税率が10%の人が、
4万円の生命保険料控除を受けた場合──
4万円 × 10% = 約4,000円の節税効果
このように、控除によって支払う税金が少し減る仕組みです。
② 対象となる保険の種類
控除の対象になるのは、以下の4種類です。
| 控除の種類 | 対象となる保険 | 年間の最大控除額(所得税) |
|---|---|---|
| 生命保険料控除 | 死亡保険・学資保険など | 最大4万円 |
| 介護医療保険料控除 | 医療保険・がん保険など | 最大4万円 |
| 個人年金保険料控除 | 個人年金保険 | 最大4万円 |
| 地震保険料控除 | 地震保険(火災保険に付帯) | 最大5万円 |
所得税の合計で最大12万円、住民税では最大7万円まで控除されます。
保険会社から送られる「控除証明書」をもとに、年末調整または確定申告で申請します。
③ 控除で“お得に見える”理由
保険料控除の魅力は、「節税できる」というイメージ。
たしかに、所得税率や住民税率を合わせると、一定の節税効果はあります。
📊 例:所得税10%・住民税10%の場合
年間12万円の保険料を支払うと、最大12万円が控除対象になります。
→ 12万円 × 20%(税率)= 約2万4,000円の節税効果
こうして「2万円も得した!」と感じるかもしれませんが、
実際には10万円以上の保険料を支払っているわけです。
④ 「控除のための保険加入」は本末転倒
ここで気をつけたいのが、
「節税になるから保険に入っておこう」という考え方です。
たとえば──
年間10万円の保険料を払って2万円節税できたとしても、
残りの8万円は確実に出ていきます。
また、不要な保険に加入してしまうと、
途中解約で損をしたり、掛け捨て部分が多くなったりすることも。
⑤ 保険料控除の注意点
1. 控除効果は人によって違う
節税額は所得税率によって異なります。
税率が低い人(=所得が低い人)ほど、控除の恩恵は小さくなります。
2. 医療・がん・年金保険などは「長期契約」前提
個人年金保険などは、長く続けなければ元本割れのリスクもあります。
短期間で解約すると損をする可能性が高い点に注意が必要です。
3. 控除は毎年申請しなければ反映されない
年末調整や確定申告で「控除証明書」を提出しないと、
節税効果はゼロになります。忘れずに申請しましょう。
⑥ iDeCoやNISAとの違い
ここで混同しやすいのが、
「保険料控除」=「投資の控除(iDeCo・NISA)」という誤解です。
実際には、まったく性質が異なります。
| 制度 | 種類 | 節税方法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 保険料控除 | 消費型 | 所得控除 | 保険料の一部が節税対象 | 支出型。お金は戻らない |
| iDeCo | 投資型 | 所得控除 | 老後資金を積み立てながら節税 | 60歳まで引き出せない |
| NISA | 投資型 | 利益非課税 | 投資の利益に税金がかからない | 所得控除はなし |
つまり──
保険料控除は「支出を減らす節税」、
iDeCoやNISAは「資産を増やす節税」。
どちらも“税金を減らす”という点では似ていますが、
性質がまったく違うのです。
⑦ 保険料控除を上手に活かす3つのポイント
- すでに必要な保険に入っているなら、控除を忘れず申請する
→ 控除証明書が届いたら年末調整で提出するだけでOK。 - 節税を目的に保険を契約しない
→ 保険は「保障」が目的。節税はあくまで“副産物”。 - 節税したいなら、iDeCo・NISAを優先
→ 同じ税制優遇制度でも、長期的に見ると資産形成効果はiDeCoやNISAの方が圧倒的。
⑧ 「お得そうで実はお得ではない」理由
保険料控除で得られる節税額は、
多くの場合数千円〜2万円程度。
もちろんもらえるものはもらうべきですが、
それを目的に高額な保険に加入するのは賢い選択ではありません。
控除とは「支出を減らす制度」であって、
「資産を増やす制度」ではない。
この違いを理解しておくことが、
マネーリテラシーを高める第一歩です。
⑨ まとめ
- 保険料控除は、税金の計算上“所得を少し減らせる”制度。
- 節税できる金額は、人によって数千円〜数万円ほど。
- 保険に入る目的は“保障”、控除は“おまけ”。
- 「節税したいだけなら投資制度(iDeCo・NISA)」の方が効果的。
- 保険料控除を“賢く使う”とは、制度を理解して損をしないこと。
おわりに
保険料控除は、たしかに小さな節税効果があります。
しかし、「控除のために保険に入る」という考え方は本末転倒です。
保険は万一に備えるための仕組み。
節税は、その結果として“ついてくる特典”にすぎません。
「制度の“お得さ”ではなく、“必要性”で選ぶ」──
それが、真のマネーリテラシーです。


