「みんな副業できている」という錯覚。統計と心理で読み解く“副業の本当の難しさ”
はじめに──「副業は必須」という空気がしんどいあなたへ
ここ数年、副業に関する情報を目にしない日はありません。
「今の時代、副業は必須」
「誰でも月5万円くらいなら稼げる」
「副業しない人は置いていかれる」
SNSを開くと、そんな空気が流れています。
しかし、その情報に触れながら、心のどこかでモヤッとした感覚を覚えた人は少なくないはずです。
- そんなに簡単に稼げるものなのか?
- 周りは成功しているのに、なぜ自分だけできないのか?
- 本業だけでも大変なのに、副業までやる余裕がない……。
もしかすると、あなたはこんな思いを抱いているかもしれません。
結論から言えば、
「副業は絶対にやるべき」という考えは誤解であり、数字と心理を丁寧に読み解くと“副業はそもそも難易度が高い活動である”ことが見えてきます。
本記事は、副業を否定するためのものでも、推奨するためのものでもありません。
副業ブームに疲れた人が、少し肩の力を抜いて、自分のペースと資質に合った生き方を選べるようになるための“やさしい視点”をお届けするものです。
① 副業をしている人はどれくらい?──「みんなやってる」は錯覚かもしれない
副業が話題になる一方で、そもそも副業人口はどれくらいなのでしょうか。
総務省「就業構造基本調査(令和4年)」では、
副業を持つ人の割合はわずか 4.8% という結果になっています。
10人中9人以上は、副業をしていない。
にもかかわらず、SNSでは「副業は常識」と言わんばかりの発信が溢れています。
このギャップは、いくつかの要因から生まれます。
SNSは「目立つ人」ほど前に出る
- 副業で成功した人
- 稼いだことをアピールしたい人
- 情報発信を仕事にしたい人
こうした人たちがSNSで可視化されやすく、
「みんな副業している」「成功している」と錯覚しやすくなります。
これは行動経済学でいう「生存者バイアス」の典型です。
副業していない大多数は「沈黙している」
副業していない人がSNSで
「今日は副業をしないで普通に暮らしました」
とは発信しません。
だから、視界に入ってこないだけなのです。
つまり、
「副業している人が多い」という印象は、情報の偏りによって生まれた錯覚である。
まずはここから落ち着いて整理していきましょう。
② 副業収入のリアル──「月3〜5万円」は当たり前ではない
次に、「副業で月3〜5万円稼げる人がどれくらいいるのか」を、データから見ていきます。
会社員の副業経験者を対象とした複数の調査で、
- 平均副業収入:5.4万円/月
- 中央値:3万円/月(真ん中の人)
- 最頻値:1万円/月
という結果があります。つまり、
- 「月5万円」は“副業経験者の中では達成している人もいる”ライン
- 「月3万円」は“中央値だが、決して簡単とは言えない”ライン
- 「月1万円」が最も多い
というのが現実です。
さらに厳しいのは、
「安定して毎月」3〜5万円を稼ぎ続けられる人は一気に減る
という点です。
副業は収入の波が激しく、継続性まで含めると成功率はさらに下がります。
③ なぜ「副業は誰でも月5万円稼げる」と思いやすいのか──行動経済学が教える“副業バブル”の心理構造
ここからは、なぜ多くの人が「副業は簡単」と信じてしまうのか、行動経済学の視点から解説します。
1. 生存者バイアス
成功者だけが目につき、失敗した多数派が視界に入らない。
2. 計画錯誤(プランニング・ファラシー)
人は「必要な作業量」「継続時間」「疲労」を過小評価する傾向があります。
結果として「自分ならできるはず」という楽観が自然に働くのです。
3. 楽観バイアス
悪い結果を自分ごととして想像しにくく、成功に過剰な期待を持ってしまう。
4. 真理の錯誤効果(Illusory Truth Effect)
「副業は誰でもできる」「月5万円は余裕」
こうした言葉を何度も聞くうちに、本当らしく感じてしまう。
特にSNSは同じ言葉が大量に反復されるため、この錯誤が強く働きます。
④ 副業には“生まれつきの向き・不向き”がある──能力ではなく「特性」の問題
副業がうまくいくかどうかは、
スキルや努力以前に、“資質の相性”が大きく影響します。
副業に向いている資質
- 不確実性への耐性がある
- 習慣化が得意
- 体力がある
- 好奇心が強く、新しいことが苦にならない
- ミスや失敗から立ち直りやすい
- 生活環境に余力がある(家事負担、通勤時間など)
副業に向きにくい資質
- 本業だけでエネルギーを使い切るタイプ
- 回復に時間がかかる
- 不確実な状況が苦手(正しい答えが欲しい)
- 変化にストレスを感じやすい
- 生活や心のリズムが乱れると不安になる
料理が得意な人もいれば、苦手な人もいる
体力がある人もいれば、疲れやすい人もいる
朝型の人もいれば、夜型の人もいる
これと同じで、副業に向かなかったからといって、人間的価値が低いわけではない。
むしろ、向いていないのに無理に続ける方が危険です。
- メンタルの消耗
- 睡眠不足
- 本業への悪影響
- 自尊心の低下
こうしたリスクを考えると、「やめる」「休む」という選択肢も立派な戦略なのです。
⑤ 本業がある中で副業をすること自体が“高難度”である──誰にでもできるようなものではない理由
ここでは、副業が難しい構造的理由を整理します。
1日の時間配分をざっくり考えると…
- 本業:8時間
- 通勤:1〜2時間
- 家事・育児・雑務:2時間
- 食事・入浴:1.5時間
- 睡眠:6〜7時間
すでに 1日はほぼ埋まっています。
残った時間は、わずか 1〜2時間。
その少ない時間を、疲れた体と心で副業に充てることになります。
この現実を見れば、「副業を継続できる人が少ない」のは当然のことです。
副業は「やる気」ではなく“余力”が必要
「やる気があればできる」という発信がありますが、実際にはやる気より、
- 生活リズム
- 精神的な余裕
- 身体的な余力
- 家庭環境
- 通勤距離
- 睡眠の質
こうした「環境要因」が圧倒的に重要です。
つまり、副業がうまくいく人は、“副業が可能な環境・資質が整っている人”であり、努力だけでは説明できない。
⑥ 副業は“やらない自由”があっていい──本業に集中するというのも立派な戦略
副業ブームの裏で、重要な視点が見落とされがちです。
副業しないことは「逃げ」でも「怠慢」でもない
本業には
- 安定収入
- 社会保障
- 会社としての信用
- スキル向上
- 昇給・昇格の機会
など、多くのメリットがあります。
本業に集中してキャリアを積み、
堅実に生活を整えていくことは、
決して時代遅れでも消極的でもありません。
副業をしないという選択も、あなたの人生を守る大切な判断のひとつ。
ブームに押されて焦る必要はありません。
あなたには、あなたの生活リズムと心の余白があります。
それを大切にしていいのです。
⑦ それでも副業に挑戦したい人へ──行動量ではなく「整える力」を優先する
副業に挑戦したい気持ちを否定する必要はまったくありません。
ただし、成功率を上げたいなら、“行動量”ではなく“整える力”を重視してください。
小さく始める
いきなり月5万円ではなく、
まずは「月5000円」「月1万円」を半年続けることから。
無理に習慣化しようとしない
週1時間でも十分です。
続けられるペースが正解。
本業を最優先にする
土台が安定している人ほど、副業も成功しやすい。
自分の資質に寄せる
苦手を克服するより、得意を伸ばすほうが楽で続きます。
おわりに──数字に怯えず、自分のペースを尊重する
副業の成功率5%という数字は、
「ほとんどの人が副業に向いていない」という意味ではありません。
むしろ、
「副業には向き不向きがあり、環境要因や余力によって大きく結果が変わる」という当たり前の事実を示しているにすぎません。
あなたはあなたの人生を生きていい。
副業をする・しないは自由です。
どちらを選んでも正解です。
大切なのは、
誰かの基準ではなく、
あなた自身のペースと資質に合った暮らし方を選ぶこと。
今日も焦らず、比べず、自分の歩幅で。
あなたの人生は、あなたの手でじっくり育てていけば大丈夫です。


