カブアンドは本当にお得?利益拡大と株式希釈をケーキで考える

はじめに
「電気やガス、携帯料金を払うだけで株がもらえる」。そんなキャッチコピーで登場したのが、前澤友作氏が立ち上げた「カブアンド」です。
生活インフラの支払いを通じて“未公開株”が受け取れるという仕組みは、日本では初めての試みとして大きな話題を呼びました。
従来、株主になるには証券口座を開設し、株式を購入する必要がありました。初心者にとってはハードルが高く、投資を始めるきっかけをつかめない人も多かったはずです。カブアンドは、その壁を取り払おうとしています。
しかし、このサービスは本当にお得なのでしょうか?単なる「もらえる株」以上の構造的な問題を抱えている可能性があります。この記事では、株式会社の仕組みと「株式の希釈」という観点から、カブアンドのメリットとリスクを整理します。
カブアンドの仕組み
カブアンドでは、提携している電気・ガス・モバイル通信などのサービスを利用すると「株引換券」が付与されます。それを同社の株式と交換できるため、誰でも株主になれるという仕組みです。
- サービスを使う → 株引換券がたまる
- 株引換券を交換 → 株式を取得
- 未公開株なので今は売却できないが、将来IPOすれば現金化の可能性あり
まるで「ポイントが株に変わる」ようなイメージで、消費者にとっては身近な投資体験を提供しています。
これにより、「国民総株主」という壮大なビジョンを掲げているのが特徴です。すでに数十万人単位の人が株主になっており、確かに裾野の広がりを実感できます。
株式会社と株式の希釈とは?
ここで少し基礎に立ち返りましょう。
株式会社は、事業拡大のための資金を調達する際、株式を発行して投資家からお金を集めます。投資家は株主となり、配当を受け取ったり株主総会で議決権を行使したりする権利を持ちます。
ただし、新しい株を発行するたびに、既存株主の取り分は相対的に薄まります。これを「株式の希釈」といいます。
例:
- 発行株数が100株で、あなたが10株持っている → 持分は10%
- 新たに100株を発行すると、あなたは10株のままですが全体の200株中の5%に減少
- 取り分が半分に減ったことになります
つまり、会社の利益が同じまま株だけ増やすと、1株あたりの価値が下がってしまうのです。
ケーキのたとえで考える株式の希釈
この仕組みを「ケーキと人数」で考えるとわかりやすいです。
- 会社の利益=ケーキの大きさ
- 株式=切り分ける人数
通常の会社は「ケーキを大きくする(利益を増やす)」ことを目指します。人数(株主数)は大きく変わらないので、ケーキが大きくなれば1人あたりの取り分も増えていきます。
一方でカブアンドは、利用者がサービスを使うたびに人数(株主)がどんどん増える仕組みです。もしケーキの大きさ(利益)が変わらなければ、取り分は小さくなる一方です。
➡ つまり、カブアンドのモデルでは「人数が増えるスピード」よりも「ケーキを大きくするスピード(利益成長)」が圧倒的に速くなければならないのです。
この構造を理解していないと、「株をもらえてラッキー」と思っていたのに、結果的に取り分が薄まって実際の価値は大きくならない、という状況に直面する可能性があります。

カブアンドのメリット
とはいえ、カブアンドには従来の株式投資にはない魅力もあります。
- 株式投資未経験者でも手軽に株主体験ができる
証券口座を作る必要がなく、生活インフラを利用するだけで株主になれるのは斬新です。 - 前澤氏のブランド力による話題性
すでに多くの人が参加しており、規模のインパクトも大きい。 - IPOによる期待感
将来上場すれば、未公開株が現金化できる可能性がある。上場直後の話題性によって一時的に株価が高騰する可能性もあります。
カブアンドのリスク・課題
しかし、良い面ばかりではありません。
- 未公開株のため今は換金できない
株を持っている実感は得られても、現金化できなければ資産価値としては限定的です。 - 希薄化による1株あたり価値の低下
利用者が増え続けても、利益が伴わなければ取り分が小さくなり、株価は上がりにくくなります。 - 収益モデルの不透明さ
株を配布することで顧客を増やすのは斬新ですが、それをどう利益につなげるのかは未知数。実際に黒字化するには別の工夫が必要です。
サービスの是非をどう考えるか
カブアンドは確かに斬新なビジネスモデルであり、多くの人に「株主になる体験」を提供しています。投資教育という観点から見ても、社会的な意義は小さくありません。
しかし投資という観点から見れば、「もらった株が必ず得になる」とは言い切れません。サービスの拡大に合わせて株式が発行されるため、株主の取り分はどうしても薄まります。上場後の株価が持続的に成長するには、発行スピードを上回る利益成長が不可欠です。
したがって、カブアンドは「お金を増やす投資手段」というよりも、「株を身近に感じる体験サービス」として楽しむのが現実的です。
カブアンドをきっかけに株式投資に興味を持った人が、カブアンドでは株式投資で儲けられない、と気づくまでがこのサービスのコンセプトなのではないかと筆者は考えています。
おわりに
カブアンドは「国民総株主」というビジョンを掲げ、株式を生活インフラと結びつける斬新なサービスです。
ただし、株式の発行と希薄化の関係を理解すれば、「株をもらえる=得」と単純に考えるのは危険だとわかります。
投資初心者の方は、ケーキのたとえを思い出してください。
「ケーキの大きさ(利益)」と「分ける人数(株式数)」のどちらが早く増えるのか?
この視点を持つことが、冷静な判断につながります。