「国民一人あたり○○万円の借金」はウソ!?数字の裏に隠されたマネーリテラシーの罠

はじめに
「日本の借金は1000兆円以上。国民一人あたり約800万円の借金がある」──。
こんなフレーズをニュースや新聞で目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この数字だけを見ると、日本という国は破綻寸前で、私たち国民一人ひとりが多額の借金を背負っているような印象を受けます。
しかし、これは非常に一面的な表現であり、私たちのマネーリテラシーを誤った方向に導いてしまう恐れもあるのです。
この記事では、この「一人あたりの借金」という表現の何が問題なのか、そして本当に見るべき数字は何なのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。
「一人あたり○○万円の借金」の正体とは?
まず、この表現の元になっているのは、日本政府の債務残高です。
たとえば2025年現在、国と地方を合わせた借金は約1200兆円にも上ると言われています。
これを日本の人口(約1億2,000万人)で割ると、一人あたり1000万円近い借金という数字になります。
こう聞くと、「国が破綻するのでは?」「この借金はいずれ国民が払うのでは?」と不安になりますよね。
ですが、これはあくまで政府のバランスシートの“負債”部分だけを切り取った数字に過ぎません。
実は政府にも「資産」がある
一般家庭の家計簿では、借金(住宅ローンなど)があれば、その分「資産(家や貯金)」もあるのが普通です。
同じように、政府にも資産があります。
総務省の発表によると、政府の保有する資産は700兆円以上。
内容としては以下のようなものが含まれます。
- 土地・建物(公共施設など)
- 有価証券(出資金や外国資産など)
- 預貯金
- 貸付金など
もちろん、すぐに現金化できないものも多いですが、それでも政府は純粋な債務超過にはなっていません。
つまり、「借金だけを見て一人あたり○○万円の負担だ」と考えるのは、企業の負債だけを見て「倒産する」と言っているようなものなのです。
借金の“相手”は誰なのか?その多くは日本人
もうひとつ大事な視点は、「その借金は誰から借りているのか?」ということです。
日本政府の発行する国債の約9割は日本国内の金融機関や日銀が保有しています。
たとえば:
- 銀行(みずほ、三菱UFJなど)
- 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
- 保険会社
- 日本銀行(実質的に政府の子会社)
つまり、「政府の借金」は裏を返せば「国民の資産」でもあるのです。
私たちが預けているお金(預金、保険料、年金積立)が、国債を通じて政府に貸し付けられている形になっているのです。
借金を「返さなければならない」のか?
ここまで読んで、「じゃあその借金、いずれ私たちが税金で返すことになるんじゃ…?」と不安になるかもしれません。
確かに、国の借金が大きすぎて将来の財政に負担がかかる可能性はあります。
しかし現実には、国債の多くは償還期限が来るたびに新たな国債で借り換え(ロールオーバー)されているのが実態です。
つまり「返す」というより、「回し続けている」状態です。
さらに、日銀が国債を買い支えているため、金利も非常に低く抑えられています。
国は借金を“負担感の少ない形”で維持し続けているとも言えるでしょう。
「国民一人あたりの資産」にも目を向けよう
ここで少し視点を変えてみましょう。
政府の借金だけでなく、「日本国民全体の資産」はどれくらいあると思いますか?
実は、家計の金融資産残高は約2100兆円(2024年現在)です。
一人あたりに直すと、約1,750万円の資産がある計算になります。
つまり、「一人あたり○○万円の借金」だけを切り取って報道するのは、あまりに偏った見方だということです。
それでもリスクはゼロじゃない
ここまでの説明で、「ならもう心配ないんだ!」と思った方もいるかもしれません。
しかし、マネーリテラシーを高めるには、リスクも正しく理解する姿勢が大切です。
たとえば、
- 金利が急上昇すれば、国債の利払いが増え、財政を圧迫する可能性がある
- 日銀が金融引き締めに転じた場合、借換えコストが上がる
- 高齢化が進み、医療・社会保障費が増大していく
これらは、将来的に財政へのプレッシャーとなり得る要素です。
つまり、「一人あたりの借金は嘘だ」と思考停止するのではなく、本質を見抜く目を養うことが、マネーリテラシーの本質なのです。
おわりに
「国民一人あたり○○万円の借金」と聞いたとき、それをそのまま信じるか、自分で調べてバランスシート全体を見るか──
その違いが、あなたの資産形成の将来を分けることになるかもしれません。
数字の意味を深く理解することは、投資や家計管理にもつながる最強の武器になります。
ぜひ、この記事をきっかけに「数字の裏側を見る力」を身につけていきましょう。